不整脈とはどんな状態?
不整脈とは、一言で表すと「心拍のリズムが乱れている状態」のことです。正常な心拍でも1日のうちに速さは変化し、寝ている間や安静にしている間は心拍が遅く、運動中や精神的ストレスなど何らかの負荷がかかっている時は速くなります。こういった生理的な変動ではなくリズムが乱れた場合は不整脈と呼ばれます。様々な種類がありますが、なかには命に関わるものもあります。
心臓は左右それぞれの心房・心室と4つの部屋に分かれており、それぞれが収縮・拡張して血液を全身に送り出しています。こうした心臓のポンプのような動きのタイミングをコントロールしているのは、心臓に伝わる電気刺激です。電気刺激は、通常は右心房に存在する洞結節と呼ばれる場所で発生します。発生した電気刺激は刺激伝導系と呼ばれる経路を辿って心臓に伝わりますが、この伝わり方に何らかの問題が発生することがあります。
刺激伝導系の経路に異常が起こったり、本来起こるはずではない場所で電気刺激が発生したりする場合に心拍のリズムが一定ではなくなって不整脈と呼ばれるのです。
不整脈の種類と症状
不整脈は、病態から以下の3種類に分かれています。
徐脈性不整脈
心拍数が毎分50回以下になる不整脈を言い、電気刺激が発生しない、または伝達が不十分なことが原因で起こります。代表的なものに洞不全症候群や房室ブロックがあります。
症状
心拍が遅くなることで全身へ送り出す血液量が減少するために栄養や酸素が行き届かず、体を動かしている時にめまいや息切れ、全身倦怠感が生じることがあります。また、ひどい場合は失神することもあります。
頻脈性不整脈
心拍数が通常以上に脈が速くなる不整脈を言い、タイミングが早すぎる電気刺激の発生や、電気刺激が本来とは別のルートを通って早く伝わることで起こります。代表的なものには、心房頻拍、心房細動、心房粗動、発作性上室(心房)性頻拍、WPW症候群、心室頻拍、心室細動などがあります。特に心室頻拍や心室細動は「致死性不整脈」と呼ばれており、命に関わる危険な不整脈と言えます。
また、心房細動は、年齢が上がると発症する頻度が増えますので、超高齢化社会をむかえる日本では、「外来でもよく見かける病気」になりつつあります。
症状
異常に早い心拍を感じ、胸に不快な感覚や動悸(ドキドキする感じ)が現れます。心臓のポンプ機能が十分に働かず、血液を全身に行き渡らせられない状態となり、ひどい場合は意識消失が起こる可能性があります。
期外収縮
本来発生するべき場所(洞結節)とは異なる場所から電気刺激が発生するために生じる不整脈で、心拍が飛んだり乱れたりする症状が起こります。不整脈の中でも最も多いと言われており、健康な人でもアルコールの過剰摂取や喫煙、過労、ストレス、睡眠不足などによって発生することはよくあります。
よく見られる不整脈ですが、元々心疾患がある方では心室が痙攣して発生する心室細動のきっかけとなる可能性があり、突然死のリスクがあるため注意が必要です。心房性期外収縮や心室性期外収縮が該当します。
症状
大抵の場合、自覚症状はありません。しかし、脈が飛ぶことで不快感を覚えたり、動悸(ドキドキする感じ)、胸の圧迫感、息苦しさ、胸痛を感じたりする方もいます。
不整脈の危険なサイン(症状)
不整脈には様々な種類がありますが、なかには命に関わるものもあります。動悸や息切れ、めまいを感じた場合など、不整脈が疑われたら早めに医療機関を受診することが重要です。
以下のような症状は危険な不整脈の可能性があります。速やかに循環器内科を受診しましょう。
- 特に理由もなく意識が薄れたり、突然失神したりする
- 脈拍が1分間に40以下となり、強い息切れが生じる(除脈)
- 脈拍が1分間に140以上となり、急な動悸が現れる(頻脈)
- 脈がとんだり、不規則に打つ
など
過労やストレスでもこういった症状は起こる可能性がありますが、頻繁に起こったり、長時間続いたりする場合は注意しましょう。
不整脈を放っておくと
どうなる?
不整脈は動悸や失神、息切れといったつらい症状を引き起こし、生活の質を低下させる可能性があります。それだけでなく、心機能が低下して「心不全」を招くことがあります。また、不整脈の種類によっては命に関わる症状を引き起こすものもあるため、特に注意が必要です。心房細動は脳梗塞などの血栓症を引き起こすリスク・心不全発症のリスクがあり、放っておくのは危険です。
ストレスも影響?
不整脈の原因とは?
不整脈の原因は様々であり、心臓疾患だけでなく生活習慣病が原因となっていることもあります。高血圧、肥満、糖尿病、喫煙、過度な飲酒といった危険因子のコントロールは大切です。また、自律神経との関わりも深く、ストレス、過労、睡眠不足などの心身状態の悪化も不整脈発作の原因となります。
症状も多岐に渡り、動悸や脈の乱れ、めまい、息切れ、咳などを生じますが無症状のこともあります。不整脈の原因や種類、重症度を診断するためにも、医療機関で治療が必要か検討することが大切です。
不整脈の検査
不整脈の検査では、通常の心電図のほかに、ホルター心電図(24時間心電図)、運動負荷心電図、心臓超音波検査、胸部レントゲン撮影などを行います。いずれも痛みはありません。
ホルター心電図
ホルター心電図は小型で携帯できる心電計をつけたまま24時間過ごし、どのような時に心電図が変化するか・不整脈が出るのかを調べる検査です。不整脈が起こる頻度や時間、狭心症発作や致死的な不整脈の有無などがわかります。
日常生活を送りながら、不整脈の診断や治療効果を簡便に評価することができます。
運動負荷心電図
運動負荷心電図は、運動しながら心電図を記録して不整脈や狭心症発作の有無を調べる検査です。
心臓超音波検査
心臓超音波検査では、心臓の形や動きを確認して心臓に異常がないか調べます。
運動負荷心電図や心臓超音波検査で異常が認められず、ホルター心電図で致死的な不整脈と診断されない場合は重大な心臓疾患のリスクは低いと考えられます。ただし、症状が続く場合は、必要に応じて追加の検査や経過観察を行うことが重要です。
不整脈の治療
徐脈性不整脈の場合
薬の副作用で徐脈が生じている場合、薬の中止や変更を検討します。
日常生活に支障がないくらいの徐脈では、基本的に経過観察を行います。脈を速くする薬は、心疾患がある場合はかえって状態が悪化することがあるためです。
心拍数が40~50回/分未満になるとふらつきなどの症状がでることがあり、さらに遅くなると意識消失などが起こる可能性もあります。また、坂道を上ったり、体を動かしている時などに心拍数が上昇しない場合は、息切れが出現します。
日常生活に支障を来たすようになれば、ペースメーカーの植え込みを考慮します。
ペースメーカー植込み手術
心臓に一定のリズムで刺激を与えるペースメーカーを植え込み、心拍を正常なリズムに戻すための治療方法です。入院期間は1週間ほどで、500円玉よりも一回り大きなサイズのペースメーカーを、一般的に鎖骨の下近くに植え込みます。
局所麻酔で約1〜2時間程度で手術が行われます。
ペースメーカー植込み後の注意点
ペースメーカー植え込み後は、動作確認のため6~12ヶ月ごとに定期的な検査を行います。電池の寿命は7~10年ほどで、電池が切れた場合は交換のために手術が必要です。植え込み時よりも手術時間は短く、負担は少なくなります。
また、ペースメーカーは外部からの磁力や電気に影響を受ける可能性があるため、いくつかの注意点が必要です。基本的には健常な時と同じように生活を送れますが、腕を動かすスポーツなどは医師に相談してから行いましょう。
使用してはいけないもの
- 電気風呂
- マイクロ波治療機器、電気治療機器類
- 非対応の場合、MRI
など
影響がある可能性のあるもの
- 金属探知機
- 体脂肪計
- コンタクトスポーツ など
頻脈性不整脈の場合
頻脈性不整脈で治療の必要があるのは、頻発する期外収縮、心房細動、心房粗動、発作性上室性頻拍、心室頻拍など様々です。
まずは薬物療法を行いますが、コントロールが難しい場合はカテーテルアブレーションを検討します。アブレーション後も再発予防として、薬物療法の継続や生活習慣の改善を実施します。
カテーテルアブレーション
首や脚の付け根からカテーテルを挿入し、不整脈の原因となる異常な電気刺激を発生する部位を焼き切ります。
入院期間は身体の状況によりますが、おおよそ3〜5日程度、実際の治療時間は2~4時間です。治療後2週間程度は激しい運動を控える必要がありますが、その他は特に制限なく日常生活を送れます。
近年目覚ましく発達している治療であり、不整脈を根治できる症例も増えています。
生活習慣改善
自律神経が不安定となる原因である喫煙、コーヒーなどカフェインの過剰摂取、睡眠不足、ストレスは不整脈増加のリスク因子です。これらの生活習慣を改善するように心がけましょう。
薬物治療
心拍数をコントロールするための薬剤、リズムをコントロールするための薬剤、不整脈による心不全を予防・治療するための薬剤など、不整脈の種類や身体状況によって様々な薬物治療を行います。
不整脈の種類(心房細動など)によっては血栓症(脳梗塞など)の予防のために抗凝固薬が必要となることがあります。
また、高血圧症や糖尿病の基礎疾患に関しても適切な治療介入を行います。
運動療法
適度な運動は自律神経の状態を改善し、不整脈を減らす効果が期待できます。生活の質を上げるためにもぜひ取り入れてみましょう。
ただし、不整脈の種類によっては、適切な運動量を検討する必要がありますので、運動療法を開始する前に一度当院にご相談ください。心臓リハビリテーションの適応となることもあります。